大阪高等裁判所 平成9年(ネ)1507号 判決 1997年7月23日
控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)
大阪総合信用株式会社
右代表者代表取締役
吉岡繁
右訴訟代理人弁護士
中務嗣治郎
同
安保智勇
被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)
株式会社日本債券信用銀行
右代表者代表取締役
西川彰治
右訴訟代理人支配人
井上堯二
右訴訟代理人弁護士
北林博
同
玉城辰夫
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 附帯控訴により、被控訴人が、別紙供託目録記載の供託金還付請求権を有することを確認する。
三 当審の訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 申立て
一 控訴人(控訴)
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
二 被控訴人(附帯控訴)
主文二項同旨
第二 事実及び争点
原判決五枚目表一行目と三行目の「被告」の次に「取締役」を加え、同九行目の「整理集結」を「整理終結」と改め、同裏五行目の「一部につき」の次に「原判決及び当判決各」を加え、当審における当事者の主張を次のとおり付加するほか、原判決の事案の概要に記載のとおりであるからこれを引用する。
一 控訴人
1 債権譲渡行為について債務者及び第三者対抗要件の具備は債権譲渡を完全ならしめる処分行為の一部であり、本件保全処分命令で禁止された担保提供行為に当たり、控訴人は本件保全処分命令により債権譲渡の通知を禁止されたのであるから、控訴人からその委任を受けていた被控訴人も控訴人に代わって債権譲渡通知をする権原を失ったことになり、本件債権譲渡通知は、整理手続との関係では無効である。なお、控訴人は、平成七年三月二八日、本件保全処分命令の送達を受けた後、その写しを被控訴人大阪支店(営業第三部伊奈徹夫)に交付した。
2 会社整理手続が開始された場合、一般債権者は、その手続中、整理会社の財産に対する個別執行が禁止され(商法三八三条二項)、破産の場合と同様、整理会社の財産が一般債権者のための共同担保となり、一般債権者は、共同担保から特別の財産を区別し優先的な弁済を受けることができる担保権者とは対抗関係に立つと解すべきである。
3 会社整理の場合には、破産手続や会社更生手続と異なり、倒産会社の独立の管理機構は存在せず、従前の会社代表者が引き続きその職務を行うことになっている。しかし、会社整理の場合にも会社代表者は、他の倒産手続と同様に、一般債権者の利益のために整理計画を誠実に履行する義務があり、特別清算の場合の商法四三四条のような明文の規定がなくても、整理終結に至るまで一般債権者に対する善管注意義務があり、その利益を保護する義務がある。このため、会社整理手続における会社代表者は、対抗要件を具備しない担保権者の地位を否認する義務がある。
二 被控訴人
1 会社整理は、あくまで債務者の自由意思による裁判上の手続であり、会社整理手続の開始によりそれまで有効に成立した契約関係が覆されるものではない。本件譲渡担保契約は、平成二年八月一三日に基本契約が結ばれて以来六二回にも亘り個別的に譲渡債権明細書の差し替えにより継続的に債権譲渡がされ、その債権譲渡について一度も譲渡通知がされたことがなかった。本件債権譲渡として譲渡債権明細書が控訴人から被控訴人に交付された平成七年三月一三日には、控訴人から被控訴人に担保として総額一八億七四五〇万円の債権譲渡がされており、被控訴人が本件譲渡債権明細書を異議なく受領することにより、右譲渡債権担保は自動的に解放された。
2 控訴人は、会社整理及び本件保全処分の申立てを準備しながら、これを秘匿して、控訴人に異状がない限り被控訴人が第三債務者に債権譲渡通知を出さないことを知りながら、これまで通り譲渡債権明細書を交付して、それまでの譲渡債権担保を被控訴人に解放させたのは、詐欺的行為であり、本件債権譲渡通知の無効を主張することは信義則上許されない。
理由
一 本件における事実関係の要旨は次のとおりである。
1 平成七年三月一三日、被控訴人の債権の担保として、控訴人の巽住宅株式会社に対する原判決債権目録記載の債権が被控訴人に譲渡された。
2 同月二八日、大阪地方裁判所は、商法三八六条二項、一項一号により、控訴人に対し、同日以前の原因により生じた金銭債権の担保のための担保提供を禁止する保全処分命令をした。
3 同日、控訴人は被控訴人大阪支店第三部長に対し、右命令の写しを交付した。(被控訴人において明らかに争わない。)
4 同年四月六日、被控訴人は、あらかじめ控訴人から与えられた代理権に基づき、控訴人を代理して、巽住宅株式会社に対し、右1の債権譲渡を通知した。
5 同年一〇月一七日、大阪地方裁判所は、控訴人につき商法三八一条の会社整理開始決定をした。
6 平成八年に、巽住宅株式会社は、債権者が確知できないことを理由に、右1の債務の弁済のため、原判決及び本判決供託目録のとおり、弁済供託をした。
7 未だ、右会社整理手続は、終結に至っていない。
二 右のとおり控訴人と被控訴人の間で債権譲渡がされたから、この債権についてされた供託金の還付請求権は被控訴人に属することになる。控訴人は、右一4の債権譲渡通知が無効であると主張するが、債権譲渡通知は第三者との関係で問題となるが、譲渡の直接の当事者である控訴人に対する関係では、その有無や効力は問題とする余地はない。
三 もっとも、商法三八六条二項により、控訴人に対し担保提供を禁止する命令がされ、現在控訴人につき会社整理手続が進行中である。
そこで、商法の会社整理の手続を、破産、会社更生、特別清算の手続と対比しながら検討すると、会社整理においては、管財人が選任されず取締役が整理を行い、整理を行う取締役につき商法四三四条のような規定がなく、債権の確定手続や、否認権の規定も置かれていない。商法三八三条二項は、個々の執行、仮差押仮処分、破産、和議などの手続の開始・続行を許していないが、整理開始命令につき会社資産の一般的処分禁止の効力を認めていない。
これらによると、会社整理手続においては、会社とそれぞれの債権者との間の実体的関係をそのまま認めて、整理を実施させるものであって、取締役に破産管財人のような特別の地位を認め、会社を第三者のように扱って債権者との間に対抗関係を持込むものではないと考えられる。
したがって、会社整理手続中であっても、債権譲渡通知の有無や効力にかかわりなく、会社(控訴人)と被控訴人の間では、既にされていた債権譲渡は有効であって、その債権は被控訴人に属するものと扱うべきである。
なお、付言すると、右のような会社整理の性格からすると、前記一2の保全命令は、その文言のとおり、新たに担保を提供することは禁止しているが、会社が既にした担保設定(債権譲渡)につき債権譲渡通知義務を履行することまでは禁止しておらず、その通知は譲受人が譲渡人に代理してすることもできるから、右決定後に被控訴人が控訴人に代理してされた債権譲渡通知も有効なものと解するべきである。
四 そうすると、原判決債権目録記載の債権、およびその弁済として供託された原判決及び本判決供託目録記載の供託金還付請求権は全て、被控訴人に属することになる。
よって、本件控訴を棄却し、当審で追加された請求を認容することとする。
(裁判長裁判官井関正裕 裁判官河田貢 裁判官佐藤明)
別紙<省略>